小澤氏の大ファンですが、このDVDには失望しました。
ビジュアルの部分が、全くなっていないからです。
『2002ニューイヤー・コンサート』と比較したら、よくわかります。まるで凡庸な地方のTV放送のようなカメラ割り。とても、スコアを理解した上でスイッチングしてるとは考えられないような脈絡のない、音楽離れした映像。観ていて、悲しくなりました。
『ニューイヤー』では、小澤氏の細かな指揮からリアルタイムに音楽が作られていく臨場感の興奮を楽しむことが出来ました。
しかし、このDVDでは小澤氏のそんな見事な指揮ぶりを観れる絵は正味数分もありません。
無用な小澤氏の顔のアップ、指揮している指先を外した画面、思いっきり引いた画面、合唱メンバーのアップ。小澤ファンに向けて作られたビジュアル・ソフトのはずなのに、まるで出演者全員を公平に記録しておきましょう? というコンセプトのような「発表会ビデオ」を観ている気分になりました。
音質も今一でしょう。もっと美音のCDは幾らもあります。美しく響かないホールが良くないのかもしれません。
これは、音楽を聴くのに、絵も音質も問題ではない、というストイックな学究肌タイプの人向きに作られた映像ソフトなんでしょうかね。
癖のない演奏で、安心感があり、聴いてすぐにでも親しみを感じることができます。また、個々の楽器が細かなフレーズまで表情ゆたかに奏でており、何度聴いても飽きがきません。小澤征爾の手兵が彼のこの曲にかける情熱を見事に表現しきっています。合唱もすばらしいです。日本から世界に発信する第九のスタンダードとなる名盤ではないでしょうか。 特筆したいのは、オーボエの音色の美しさです。ソロでも活動している宮本文昭がオーボエの首席奏者なのですが、温もりのあるそれでいてよく通る、なんとも言えぬいい音を出しています。
そして、ティンパニー奏者ファースの職人技が光ります。小澤がボストン響の音楽監督に就任する前からこのオケに籍を置き、小澤の退任とともに、常任を退いたという経歴の人で、小澤が厚い信頼をおいている奏者の一人です。今回の収録に際して、小澤はレコードエンジニアにティンパニーの位置取りを注文をつけたと言われています。ファースはサイトウキネンにいつも参加しており、松本の音響を知り尽くし、絶妙の仕事をこなしてきました。演奏とは直接関係ないことですが、演奏終了後、客席からの拍手が鳴っている間、小澤は、オケの主要なメンバーと握手をしながら、舞台を歩き回るのですが、画面で演奏者などクレジットが流れている、一番最後のシーンで、小澤とファースが手を取り合いながら、互いに軽く手を叩き合うシーンは実に微笑ましいです。
収録の状態についてですが、音の配置が左右に分かれすぎず、それでいて広がりのある自然な音の響きで、たいへん臨場感があります。20bitで収録されているおかげでしょうか小さく鳴っている楽器の音も鮮明に聞こえてきます。また、映像も鳴っている楽器を追うだけでなく、演奏者の表情をうまく捕らえ、演奏の良さをさらに引き立てています。家庭のオーディオでもここまでリアルに表現できるようになったのだということに少し感動しました。2CHでも十分だと思わせます。